The Materials
自由な発想を形にできる「クレイ」
Penemuan!の作品は主に「クレイ」を使用しています。自由な造形を可能にする「クレイ」はとても魅力的。「クレイ」と言っても天然のクレイではなく、ポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とした合成樹脂=プラスチックの一種で、一般的な粘土のような感触から「クレイ」と呼ばれています。「クレイ」の主成分であるPVCは原油から得られます。原油からは様々な製品が出来上がりますが、そのうちの約3%がプラスチック製品として私たちの身の回りに存在しています。
プラスチックは自然界では簡単に分解されない特性から現代のヒール役に定着してしまいました。ですが、今あなたの周りをぐるっと一周見渡してみてください。どうでしょう?プラスチック製品に囲まれていることにお気づきになったでしょうか。洋服、おむつ、車、あなたが今この文章を読むために使っているそのデバイスにも多くのプラスチックが使われています。軽くて丈夫、長期に渡り品質を保てるという特性があるからですね。プラスチックは原油の精製過程でできるナフサから作られます。ナフサはもともとは廃棄物として処理されていましたが、地球の大切な資源である原油から廃棄物を出すのはもったいない。そこで先人たちは多くの知恵と労力をかけてナフサをプラスチックとして世に広め、豊かな社会を作り出しました。
プラスチックには物質的豊かさのために大量生産大量消費の流れが出来上がり、地球全体に歪みをもたらしたと言う暗い背景があります。一方で、使いかた次第では様々な問題解決に大きく貢献できる素材であることも忘れてはいけません。事実、我々は日々プラスチック製品に助けられて過ごしています。プラスチックと人間は、最適な「バランス」で共存すべき関係なのです。
天然素材は素敵です。しかしながら、天然素材=環境に100%良い素材というわけではありません。ものつくりをする上で、素材の持つ性質や歴史的背景を総合的にとらえ、今を生きる私たちが軽やかに未来を見据えられるかどうかは大切な視点です。
Penemuan!は大いなる地球の恵みと脈々と続く人々の営みに感謝しながら、自由な発想と造形を可能にしてくれる「クレイ」を捏ねています。
たおやかな美しさ「銅」
2023年 Penemuan!の作品に新しく加わった「銅」。金でも銀でもなく銅である理由は加工のしやすさと、なんと言っても色の美しさです。樹脂の強度補強との観点だけだと候補に上がる金属は他にもあります。ですが、色を持つ金属は金と銅だけ。金は言わずと知れた貴金属で、光沢のある黄色が特徴です。一方、銅は控えめに輝く赤桃色が魅力で、傲慢とは程遠い謙虚さとたおやかな強さがあるのです。
銅の色から連想したイメージは決して的外れでもありません。銅には電導率や熱伝導率の高さ、優れた耐食性や抗菌性、加工のしやすさなどの特性から、電線や水道、硬貨から調理器具、医療機器にいたるまで、現代社会における私たちの生活と密接な関係があります。決して目立ちはしないけれど、確かに私たちは銅に支えられているのです。
また、脱炭素社会の実現に向けて銅の需要時はますます増加傾向にあります。しかしながら、銅は地球の有限資源。銅は永遠に採れるわけではありません。さらには銅鉱石採掘による環境破壊、危険な労働環境の改善についても考慮しなければなりません。そこで注目されるのがリサイクルです。銅は回収と精錬を行えば半永久的に再生可能です。銅のリサイクルは進んでおり、電線や伸銅メーカーでほぼ100%原料として再利用されています。記憶に新しい所では東京オリンピックのメダルが都市鉱山からのリサイクルで100%賄われたことは有名な話ですね。また、銅は製造から輸送、加工などのプロセスでのCO2の総排出量が少ない点でも「エコマテリアル」としての存在価値はとても高いのです。
ジュエリーとしての価値は金に勝る金属はありませんが、Penemuan!は銅のこの健気な姿に価値を見出しています。
What I always think
過去に海洋観測の仕事を通して世界の環境を見守ってきた私は、ジュエリーデザイナーになった今でもいつだって、環境負荷を小さく、人として豊かに活動することを第一に考えています。その際に大事なことは、声高に環境活動を叫ぶことよりも、「大きな視点で世界を見渡す目」と「バランス」を持つこと。大切にすべきものを見失うことがないように。